自宅や実家の片隅で、静かにその役目を果たしているはずの金庫。しかし、いざ開けようとした時に、「ダイヤル番号が、どうしても思い出せない」。この、血の気が引くような事態は、特に、何年も開けていなかった、古い金庫で、起こりがちです。中には、大切な書類や、思い出の品が入っているかもしれないのに、固く閉ざされた鉄の扉を前に、途方に暮れてしまう。そんな時、専門業者に、すぐに電話をかける前に、まずは、落ち着いて、自分で試せる、いくつかの基本的な対処法が存在します。最初にすべきは、「記憶の引き出し」を、もう一度、丁寧に開けてみることです。金庫のダイヤル番号には、設定者の心理や、個人情報が、色濃く反映される傾向があります。あなたが、あるいは、その金庫を設定した家族が、どのような数字を選ぶ可能性があるかを、リストアップしてみましょう。最も多いのが、自分や家族の「誕生日」です。月日を組み合わせた四桁（例：0815）や、西暦と組み合わせたものなど、様々なパターンが考えられます。次に、昔の「電話番号」の下四桁や、自宅の「住所の番地」、あるいは、車の「ナンバープレート」の数字なども、非常に有力な候補です。また、単純に「1234」や「0000」、「7777」といった、覚えやすいゾロ目や、連番を、設定している可能性も、捨てきれません。これらの、心当たりのある数字を、一つずつ、焦らずに試してみてください。この時、ダイヤルを、一桁ずつ、カチッという感触があるまで、確実に合わせることが、重要です。中途半端な位置では、たとえ番号が合っていても、ロックは解除されません。これらの地道な探索で、意外とあっさりと、忘れていた番号が、見つかることも、少なくありません。業者を呼んだり、破壊したりする前に、まずは、自分自身の記憶と、向き合ってみる。それが、開かずの扉を開くための、最も穏やかで、賢明な、最初の鍵なのです。